HR Tech スタートアップのエンジニアリング組織開発とチェンジマネジメント2年分

目次

入社2年経って個人的な振り返り

株式会社 overflow に VPoE として入社して2年が経ちました。( 入社当時の記事 ) ふりかえり具体の前に弊社について簡単にご紹介をば。

弊社の Offers 事業は「転職」と「副業」をテーマにデジタル人材が社会において同時多発的に活躍し、その時々で然るべき場所に然るべき人材が流動する人材循環型社会を志向したプラットフォームです。

転職 + 副業という切り口で本邦のデジタルを加速させる

デジタル人材において労働人口の圧倒的な不足が予想される中「副業」を通して優れた人材の優れた知見が社会的にシェアされることの意義はもちろん、個人の立場としても副業はキャリアのリスクヘッジとして有効に働きます。

当職 VPoE は組織開発が主な職務

overflow は CTO が技術経営を担うのに対して、VPoE が組織開発を担うかたちで管掌の分担が行われています。レポートライン上は CTO が VPoE の上長にあたるので組織開発も技術経営の最大化を念頭に執行しています。

ピープル、テクノロジー、開発進行 (事業アライン) のマネジメントスコープ3つがそれぞれ円滑に執り行われるための組織開発と、ピープルマネジメントを主務とします。その他の業務は雑多すぎるので割愛。

ちなみに CTO や VPoE がしばしば兼務しがちなプロダクトマネジメントは CPO の管掌になっています。

「変化」と「成長」と「注力」

成果としてどこを目指すかは状況に依るものとして、組織開発の普遍的な要点としては変化、成長、注力(推進)の最大化を念頭に置いて取り組んでいます。

  • 然るべき変化が実感できること
  • チャレンジや成長の機会をつくり続けること
  • 注力すべきに注力すること

過去にダイナミック・ケイパビリティの考え方に感化されたことから内発的な変化と適応に比重を置いています。徹底的なフラットやボトムアップ偏重で統制がとれるとは思っていないため実態としては懐が深くて優しい専制主義に寄りがちと自認するところです。

マネージャーとしての世界観

これはちょっと煽りすぎですが(ごめんて)、マネージャーの世界観が反映されたメッセージこそがマネジメントをマネジメントたらしめると考えており、課題に対する処方箋としてのフレームワークやプラクティスの安直な適用には慎重な立場です。

処方箋に期待される結果が本当に目の前の状況に対して有効なのか、世間の「良かった探し」を再生産しているだけではないのか、本当にマネージャーの世界観に適合しているのか自問を要します。また会社の文化の現状を見極め、状況に応じて変化させていく過程においてスキーム先行ではうまくいきません。土着の文化ありきで、それに応じたスキームを選別していくべきです。

① 2022.04 〜 スケールアウトの基盤づくり

ここから回顧録です。

入社当初は採用、技術広報、ガバナンス整備を粛々と行いました。組織や事業のインプットも十分ではなかったので、まずは、どうあっても必要になるであろう基盤を整えておこうという保守的な方針です。

「副業」 を強みにする組織方針の策定と注力

Offers にとって「副業」が重要なテーマであることから、overflow 社内において副業人材の活躍が一過性でなく持続的な企業価値に寄与するスキームの構築が開発組織で自社の企業価値を高めるアプローチであると定めました。

  1. 副業人材の活躍が overflow のコアな価値 (※) に成果を残す
  2. 成果をもって人材の副業体験、従業員満足度を最大化する
  3. 社員メンバーだけでなく副業メンバーからのポジティブな発信を引き出す
  4. 社外の潜在顧客、潜在候補者 etc に発信を届ける
  5. Offers の新規利用や副業転職、新たな人材との出会いに結びつく → 以降ループ

書いてしまえば単純かつドッグフーディング観点で当たり前ですが、徹底的に「副業」を擦り倒すサイクルの実現が唯一絶対の方針です。

※ コアな価値 = 技術資産、プロダクト、社員・副業メンバーの経験値

入り口として採用、選考プロセスの整備

採用を急ぎたいフェーズだったこともあって、CTO や生え抜きのエンジニアメンバーを巻き込んで下記の整備と実行を粛々と進めました。CTO と私以外の社内の物差しを育てるためにもスクラム採用スタイルです。

  • 評価基準の言語化(社員、副業それぞれ)
  • 構造化面接ライクな整理
  • エンジニア向けピッチの作成(カジュアル面談用)
  • 選考中の候補者向けアンケートや面接録画スキームなどの整備
  • 全体的なドキュメント化

採用人事が本格的に参画するまで手弁当で Offers を含む採用媒体を漁りスカウトを打って、面談、面接、アトラクトを重ねた結果ほぼエンジニア工数だけで半年のうちに元 CTO の古強者を含む5名の内定承諾が決まりました。

うちの事業が事業だけに多くの採用媒体からはお断りされるため、使わせてくれた一部媒体の各社には感謝しております :)

成果を残してもらうためのオンボーディング整備

副業、社員問わず成果を残して貰うために3ヶ月間を目安としたオンボーディングの整備にも着手しました。具体的なオンボーディングプログラムの作り込みは走りながらですが、分散した必須情報の集約、非同期なコミュニケーションの明文化などのドキュメンテーションを中心に社内で部分的に横展開などもされています。

副業メンバーのマネジメントスキーム整備

オンボーディングとは別に特に副業メンバーを対象としたマネジメントスキームの整備もしています。これらを前提としつつ副業メンバーの活躍を共有する会議体を設定し、副業のマネジメントが特定個人の負荷にならない工夫もしています。

  • プロに業務を委託するという線引きのメンバーレベルでの徹底
  • エンゲージメントを高めるコミュニケーションの例示
  • タスクアサインの判断基準(期日感 × ドメイン知識の要否)
  • アウトプットの可視化と振り返りスキーム
  • 継続判断や報酬見直しのロジ整備
  • 副業転職(社員化)に向けた方針と戦術
  • 時間単価契約の報酬計算式(だいたい外れない秘伝のタレ)

事業的にも重要な要素だったため当時のフェーズには少々過分なほどの作文をした結果、カスタマーサクセス経由でお客さまの手元にもノウハウ資料に化けて旅立っており多少なりとも貢献できたかなと。

広報資産を積み上げるテックブログの建立

参照先: テックブログの運営ノウハウと FY2022 前期の完走報告 | Offers Tech Blog

過去に zenn で記事化してあるのでそちらを参照いただきつつ、ポイントとしては「善意ではなく業務として取り組む」「まずは質より量をとる」が重要なプラクティスと考えています。

採用の場でも「あの記事を見て興味をもった」「この記事についてもっと話を訊きたい」といったポジティブな反応も得られ、実はそこそこな PV もコンスタントに獲得しており "Offers" の認知拡大に寄与したと思われます。

※ SEO 狙いでめっちゃロングテールな記事を書ける元ライターなエンジニアメンバーがおりましてテックブログにしては玄人の仕事が入っていました :)

エンジニアのロールと期待役割の言語化

参照先: エンジニア組織でありがちなリーダー・マネージャー問題と、フレキシブルで可逆なキャリア開発のアプローチ|Offers Tech Blog

こちらも過去に zenn で記事化していますが、若年メンバーも在籍していることを鑑みてキャリアに繋がるイメージと期待役割の明文化も早期に行いました。開発における役割の棚卸しを経て、職位や等級からは独立した「役割」の定義になっています。

全社の組織戦略や評価制度の策定

主に HR と連携した取り組みとして、組織戦略や評価制度の策定にも携わっています。

当時の全社組織戦略には前述の 「副業」 を強みにする組織方針 が部分的に取り込まれした。評価制度については前職の終盤で人事に片足を突っ込んでそれなりに達者になったおかげで、社内外の HR 責任者に混ざって色々議論させてもらいました。

じつはデザイン領域も担当

ボードメンバー内での分担としてデザイン領域も預かっています。デザインに対して経営としてどのような期待があるかを伝えるのが主であり、デザインチームやデザインワークの具体はお任せしています。

一方で経営会議で社内の現状におけるコミュニケーションデザイン領域の必要性を説いてポジションを作るなどの形では携わっています。

② 2023.04 〜 開発組織とチェンジマネジメント

2022年10月ごろから注力事業の開発を CTO 直下の指揮に変更するなど変化の端緒は開かれていましたが、全社方針の変化に呼応する形で開発組織のマネジメントにもいよいよ変更を加え始めました。

戦力化、筋肉質化への注力

この頃、過去半年の採用によってオンボーディング途上のメンバー率が増加しており傍目には「人数増に対してアウトプットが振るっていない」という状況がありました。

コンテキストをもった当事者からすればもどかしい状況であり、即効性のあるプラクティスや型の適用にも限度があります。そんな中「他人の世話を見るよりも、自分の成長・成果にとことん向き合おう(超意訳)」という方針を打ち出して筋肉質化の文脈を強めました。

手堅いツリー型からフラット寄り「脱・世話焼きマネジメント」への変化

ミドルマネジメント候補の育成を含めイザとなったら堅めにも振れるようにしていましたが、当時の状況で堅めのスキームを突き詰めることはプロダクト成長の枷になることが想定されました。半年前は判断が付かなかった中でようやっと見えてきたので変化に踏み切った次第です。

フラット極振りではないもののミドルマネジメント育成を中断しつつ、CTO と VPoE とデザインマネージャーにレポートライン(評価ライン)を集約しました。同時に少数のマネジメントをスケールアップさせるため「脱・世話焼きマネジメント」が始まります。これは今名付けた。

筋肉質化と矛盾する部分もありますが世話を焼ける側も自分の成果に向き合う姿勢を見せることを優先しました。(そして色々言いつつも焼くべきは焼いています)

目標設定と評価に絡めた全員参加型マネジメントの導入

自分のことは自分で面倒を見れることの必要性を示す施策として「VALUE チェックイン MTG」という月イチで開発メンバー全員で集まり、目標の自己設定と自己評価を共有しフィードバックをもらう会を始めました。

  • セルフリーダーシップ(またはセルフマネジメント)の促進
    • 自分で決めた目標をやり切って、自分で振り返られる裁量
  • コミットメントとフィードバックのオープン化
    • ポジネガ問わないフィードバックによる順当なプレッシャー

細部に議論の余地がある施策ではあり、メンバーからも当時は懸念や不安そうな声が挙がりましたが直近はアンケートを見てもポジティブな取り組みに育っています。

半期ごとの昇格の自薦と審議のスキーム整備

半期毎の昇格判断シーズンにおいて自分が等級に見合う実績があると思ったら、自ら手を挙げて推薦できるようにしました。マネージャーの昇格させる責任を完全に放棄するものではありませんが、社内における成長目線と現在地を自分で意識してもらう機会です。

  1. 等級表を念頭に昇格にふさわしい事由を当人がまとめて提出
  2. マネージャー + 当人より等級の高い者で昇格の是非を審議
  3. マネージャーから結果をフィードバック

瞬間的に関係者全員の負荷が高くなる行事ではありますが、明文化されていても解釈に齟齬が産まれがちな等級・グレードについてフィードバックを通して更なる言語化と共通認識を醸成できるメリットがあります。

ご多分に漏れず LLM による機能開発

ここまでの流れでプレイヤー比率を高めるのは CTO と VPoE も例外ではなく、当時は自分のプレイヤー比率を高める一環で LLM を利用した機能開発の検証にもチームメンバーと共に取り組んでいました。

当時の成果としていくつかの機能をプロダクトに反映することはできましたが、社内利用を活性化する方面は振るわずやや反省が残るところではあります。

③ 2023.10 〜 挑戦と成長によるスケールアップの模索

ピザ4枚弱の人数感だったこともあり半年過ぎる頃には「脱・世話焼きマネジメント」環境下が日常に溶け込みました。一方で各位にに挑戦と成長を促す差配は続けていたので、脱・世話焼きの副産物として裁量の獲得とプレッシャーがポジティブに作用したメンバーもいます。

自発的に大事な関心事と向き合える土壌づくり

脱・世話焼きのセカンドステップとして組織機能、厳密には組織の意思決定に対するオーナーシップの健全な分散を企図しました。マネージャーだけが組織機能を担うことによってメンバーが組織のお客さまになるのは避けたい未来であるからです。

そこでティール組織的な委員会の亜種として、将来的には各自が必要と思うコトを自発的に取り組める環境づくりと土壌となる組織内の了解を醸成する仕込みを行っています。まずは事業直結ではないが重大な課題(セキュリティ保守や重度の負債)への取り組みを試金石としてワーキングループ制度を実験的に開始しました。

個人単位からチーム単位に至る成長目線の拡張

年明けにスポットのワークショップを実施したのみですが、チームにおける半年後の理想と成長目標に向き合ってもらう機会を設けました。

  • チームの今後の成長について解像度を上げて共通認識をつくる
    • チームとして何ができていたらより良いか
    • 誰がどうなっていたら、より成果を出せるか
  • チームの事業貢献と、個人の自己実現のすり合わせを行う
  • チームの理想に対して、個々人がどのように貢献するのかを宣言してもらう

前述のVALUE チェックイン MTG が個人にフォーカスしていた中、チーム個別の経験学習の推進と合わせてチームとしてのゴールを明確にする必要がありました。普段からスプリントごとの振り返りをしていても、改まって「自分たちの理想状態は?」と向き合うことは少ないので良い機会になったようです。

企画する割に私がワークショップ的な催しに不慣れな部分はデザイナー各位の miro ぢからに助けられました。

開発フルコミットへの一時復帰

10-11月頃は 「控えめな App Router と持続可能な開発」 というタイトルで久々に外部発表した :: ハブろぐ に至る開発にほぼフルコミットで取り組んでいました。完全にリハビリ案件。

そんなところで今に至ります。あー、長かった。

経営ボードとしての役割

いわゆる経営会議に出席するボードメンバーでもあります。もちろん会社法上の役員ではありませんし、執行役員制度も無いので実質スゴイ平社員です。

現時点の自己評価としてビジネス的な意思決定への貢献に課題は残るものの「会社ごっこをしていないか?」という自問可能性の獲得は重要な発見でした。結果論として反省、後悔も多くありますが入社当時と比べれば何とかやっています。

※ 会社ごっこのくだりは自分自身の内省にのみ適用している話です、念のため :)

「変化」 しよう

組織寄りのマネジメント業としては社内や事業の変化をいち早く嗅ぎ取って備え、管掌が変化に遅れをとらないよう方針を示し続け、地上戦で実感を伴って浸透させていくチェンジマネジメントの重要性を学べた2年でした。

キャリアの弾力性においてイチ開発者として復帰しようと思えばできると自負はするものの、当面は組織開発を主軸とした経営コミットのほうが意義を感じるので暫くはマネージャー路線で生きていく所存。

マネジメントや組織開発の文脈で語る機会に乏しく、たまに Web フロントエンド開発に戻って言いたいことを散らかすとそれなりに世間の反応が得られてしまうことに内心複雑な今日この頃 :|


Author

ahomuAyumu Sato

overflow, Inc.VPoE

東京資本で生きる名古屋の鳥類

Web 技術、組織開発、趣味など雑多なブログ。技術の話題は zenn にも分散して投稿しています。

Bio: aho.mu
X: @ahomu
Zenn: ahomu
GitHub: ahomu

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